「臨床喫茶学」・・レトロ・モダンの喫茶ワールドでライフスタイルを学ぶ・・12

 日本の国の成熟とはを考える・・10・人間関係をどう見直すか;「レジリアンス」と「人薬」・・斉藤環

 精神科医で引きこもりを専門とする斉藤環は、『ネオテニー(neoteny・幼児成熟)、アドレスセント(adolescent・子供っぽさ)』などのコンテンポラリーアート世界での芸術家の人間像について考察しています(「アーティストは境界線上で踊る」みみず書房、2008年)。

 この三月に『「社会的うつ病」の治し方  人間関係をどう見直すか』(新潮選書、2011年)を上梓されました。

 社会的な人間関係と日本社会の成熟を考える上で大変重要な課題を取り上げていると思います。


 「社会的うつ病」なる「引きこもり」と共通する社会的要因と社会的適応の病としての人間関係や活動に注目した「人薬」なる治療法の重要性を説いています。

 斉藤環医師は、精神病治療に「医薬」の使用を否定、行っていないのではなく、ここで取り上げています社会的適応の病には「人薬」の大切さを説いているのですから誤解のないように!

 また、心の強さを示す「レジリアンス」(resilience)の概念を取り上げています。

 斉藤環によるレジリアンスの定義は次のようです。

 「ある程度の脅威や厳しい悪条件においても、それを乗り越えていくために機能する能力、上手く適応するプロセス、あるいは帰結」としています。

 『レジリアンスに影響を与える保護因子としては、例えば、性格特性、自尊心の高さなどの個人的要因や、家族の凝集性や暖かさ、肯定的な親子関係などの家族要因、友人や教師からのサポート、学校での肯定的な経験などの社会的環境要因があるとされる』のです。

 引きこもりは「プライドは高いが自信がない」傾向の人が陥りやすく、「自己愛システム」機能が不完全な「自己愛の乖離」状態が問題になるとしています

 「自己愛とは、対人関係という食物を摂取しながら成長し、平衡状態を維持し続ける生きもの」として例えています。

 そして、『自己愛システムとは、自己の理想や野心を可能にするためには社会や他者とのかかわりあいながら実践しなければならない「スキル」が必要』なのです。

 『「スキル」とは、単なる対人スキルとかコミュニケーションスキルとかの意味を超えて、ある種の触媒として機能するものとの位置づけ』とあります。

 自分の野心や欲望を適えるためには、他者との欲望とかかわらなければなりません。

 それ故に、自己愛と他者との愛は切り離せないことになります。

 理想、野心や欲望を適えていくためには、他者とのかかわりとともにカップリングしながら適えていかなければなりません。

 益川らによるノーベル物理学賞となった「クロスカップリング・Cross Coupling」反応が人世界の人間関係でも必要なのです。

 つまり、現実にふれながら少しずつ修正しながら理想通りではない目標に向かいながら「当初の理想にこだわり過ぎて何の行動も起こせないよりまし」となります。

 『「理想」を「プライド」に、「野心」を「自信」に置きかえると「自己愛の乖離」』となり、『プライドは高いが自信がない、という乖離状態』となり、『あらゆる意味で行動力を低下させ』『行動に駆り立てる野心=自信が衰弱し、行動を導く理想=プライドが機能不全に陥る』ことになります。

 つまりは、「自己愛システム」のスキルのクロスカプリングが機能しなくなって社会的適応を欠くことになり、社会的うつ病や引きこもりを誘発することになるのです。


 社会的変動が激しく、不安の時代にあって、人間関係も含めて予期せぬことや異質に対する耐性が失われてしまって、北野武が言うハングリー精神に乏しいのか、つまずきや失敗が成長にとって大切だとの気が乏しくなっている現実があります

 引きこもり、社会的うつ病では適応の病、過剰適応などの心理的変化が課題となり、次のようなレジリアンスとしての要因が指摘できます。

 ・目的や価値観の欠如・・

   長期的な目標がないために自分の立ち位置が不安定となるために、場当たり的な状態の対応で気が抜けない。

   そのつどの脅迫感を受けることになる。

   自分は悪くないのにと自己愛の幻想は強く、他者や社会などに問題ありと他責性が強くなる。

   「多様な価値観による選択の自由」と「共同性』との区別が出来なくなる。

 
 レジリアンスが乏しいと未成熟化心理状態になり、社会的に主観的な孤独感を感ずることになり、自己愛の脆弱さによって傷つくとその修復が容易でないために「自己愛の乖離」となって引きこもりシステムに引き込まれていくことになります

 未成熟な「高いプライド」、「低い自信」は自己の肯定感が乏しく、「自己ー対象」のかかわりは低下して自己愛システムのスキルが作動するクロスカップリング不全状態となって、負の連鎖となる未熟化状態が続くことになります。

 未成熟な自己愛システムの不全状態を成熟した健康な自己愛システムのスキルがクロスカップリングするためには「人薬」(ヒトグスリ)が必要斉藤環と説いています。

 「人薬」は単なる対人スキルとか、コミュニケーションスキルではなく、多様な他者たるモノやアイディアなども含めて複合的にかかわった社会的適応性あるクロスカップリングが出来るように成熟した自己愛システムのスキル育成が求められることになります。 

 いつまでも不安定な自己愛の幻想状態の未成熟が続かないように自己愛システムのスキルを成熟させるような「人薬」です。

 自己愛システムのスキル成熟には他者が必ずしも「人」でなくとも他者性を発揮してくれるような対象などの複数が望ましく、利害関係を離れた横のつながりなどの流動性が自己愛システム修復の可能性を高め、成長の可能性をイメージし易いと説いています。

 つまり、家族や会社等とのかかわりから始めるよりも、不特定の横のつながりなる「人薬」環境が望ましいのです。

 斉藤環が指摘するように、社会的うつ病や引きこもりの人たちでは「病気か怠け者か」とか「仕事はうつになるくせに、遊ぶときは元気になる」と単なる甘えとして治療の必要なしと判断するのではなく、『ストレスの少ない活動はこなせるが、ストレスが高まると難しくなる』との認識をする必要があります。

 それ故に、「人薬」治療の対象が「自己愛システム」のクロスカップリング スキルが未成熟から成熟スキルへの成長のプロセスを進められる可能性があるのです。

 社会的引きこもりは、人間関係や活動を個人から社会的要因・環境を取り込んだ、社会的方法が治療法であり、社会的視点に立った治療法が求められているのです。

 「人薬」療法は複合的な社会環境資本なる対人関係療法、個人精神療法や環境調整療法が求められるのですが、「すれっからし」の患者には「治療も十分な成果が挙げにくい」としています。

 『彼らの多くは本やネットからさまざま情報を得ています』から『心理学化の影響もあって、治療に関する知識が豊富なぶんだけ、「すれっからかし」になりやすく』、『治療によって起こりうる変化があらかじめ予測できてしまうと、変化そのものが起こりにくくなるため』としています。

 近年は、ネット情報も含めて、医療関係の情報が沢山でていますが、その情報の質に問題があっても自己流の解釈や偏見を持ったり、一面的、断片的な独善的解釈に陥ってしまい、総合的な理解が出来ていないために正当な診断、治療の障害になっていることは少なくありません。

 そうした患者側の独善性を逆手に取っての医療側や健康関連業者の姿勢にも根深い乗り越えなければならない難題が氾濫しています。

 「こころの身体化」と言えるような操作によって、「情報コンテンツのサプリメント化」も含めた「サプリメント・カルチャー」が大衆に形成されている問題があるからです。

 三百万人以上と言われる「社会的うつ病」や「引きこもり」は「社会環境資本」を充実することによって「自己愛システム」のクロスカップリング スキルが未成熟からレジリアンスある成熟化をすすめる「人薬」が求められていると判ります。 


『  社会的引きこもりにレジリアンスの未成熟を成熟化する「人薬」がキー・・斉藤環 

   時代、社会の変化は激しくて予期せぬことが日常茶飯!

   予定調和よりも予期せぬを期待して楽しもう!

   レジリアンスのトレーニングとなるよ!


    プライドは自己愛システムのクロスカップリング障害のもと

    自己愛システム回転スキル不全を引き起こすよ!

    高いプライド、低い自信は自己愛の幻想だ!

    自分は悪くないの他責性思考は止めよう!

    社会的引きこもりの誘引となる!


     引きこもってもIT社会があるよ!

     引きこもってもオタク社会があるよ!

     人薬によってクロスカップリンの未成熟を超え!

     我欲すの心で未成熟、成熟の彼岸の道も超え! 


        ガンジーの言う如く!

        今日一日の命と生き、永劫に生きるを学ぼう!       』